蔵元便り   11月

 今年も待ちに待った酒造りが始まりました。10月25日には杜氏のおやっさんも到着し、今年度初めての米洗いもしました。これからしばらくの間、あの、戦場のようにいそがしく、でもどこかお祭りのように楽しい雰囲気がこの蔵の中に漂います。、
 そのいそがしい現場に、今年も「上林の怪人」こと篠塚さんが手伝いに来てくれます。その奇怪な風貌に似合わず(失礼!)、とても真剣に仕事をこなしてくれ、すっかり「チーム若宮」の一員になって大きな声で笑っています。
 25日の夜には、恒例の「蔵入り」の酒宴が開かれました。おやっさんの話を聞き、これから始まる酒造りに皆、誓いも新たにし、久々に思いっきりお酒を飲みました。言いたい事を言って、大声で笑って、とても楽しいお酒でした。(最後にちょっとしたハプニングがありましたが・・・。ね、専務。)
 この、足並みが揃っていないようで、揃っている(?)「Team Wakamiya」。今年はどんなお酒が出来上がるでしょうか?ご期待ください。

いよいよ酒造りスタート!

諦めない心

酒造りについて熱く語るおやっさん

「Return Of 上林の怪人」。強力な助っ人、篠塚さん

 あの結果には驚きました。凄いレースでした。2007年の「F-1 Grand Prix」です。奇跡の大逆転でスクーデリア・フェラーリの、キミ・ライコネンがドライバーズタイトルを獲得した(後でごたごたがあって、現時点ではどうなるのか分かりませんが)のです。
 ポイント上はマクラーレンの二人のドライバーが圧倒的に優位でした。誰が見てもライコネンにはチャンピオンの座は遠すぎると感じたでしょう。それを可能にしたのは、ライコネンの強い精神力と、スクーデリア・フェラーリのメンバー全員が、「チャンピオンになる」と信じ続けた結果だと思います。不可能に見える、感じることでも、「やってみせる」という気持ちが奇跡を生むのでしょう。

 今年も酒造りが始まりました。しかし私は、今年はいつもと違った気持ちでいます。酒造りの世界も高齢化が進み、おやっさんも70歳を超えています。いつまでも、おんぶにだっこというわけにはいきません。ですから、今までのようにおやっさんの指示を理解して動くだけでなく、自分で何でも考え、行動できるようになりたいと思っています。とはいえ、設備の整った大手の酒蔵ならいざ知らず、ほとんどが手造りのこの蔵で、頼りになるのは「勘」と「経験」です。データだけではうまく行かないことばかりです。だからどうしても、おやっさんに頼りがちになってしまいます。おやっさんは「こういうときは、こうすれば良い。」と即座に判断しますが、私にはなかなか判断できないことが多々あります。全部自分が判断しなければならないとなると、正直、不安になることもあります。
 でも、あのグランプリを見て、考え方が変わりました。ライコネンだって、新しいチームで不安はあったでしょう。なかなか結果がついてこなかったこともあるでしょう。でも「勝つために」「フェラーリを勝たせるために移籍してきた」ことを忘れていなかったからこそのタイトルだと思います。私も「自分たちだけで酒を造る。そのために私がここにいる。」「私がいなければ始まらないんだ。」そう自分に言い聞かせて、やっていこうと決心しました。そして私は、ある映画の一場面を思い出していました。

 やってみるではない。やるか、やらないかだ。やってみる、などという言葉はない。
 なにも違いはない。違っているのはお前の心の持ちかただけだ。


 そう、あの有名なSF映画に出てくる、緑色の小さなエイリアンにそう諭されたような気がしました。
 「私はやる。」そして「絶対いい酒を造って、タイトルを目指す。」ことにしました。一緒にF-1のビデオを見ていた息子に、「お父さんは、絶対に諦めない。ぎりぎりまでがんばって、ぎりぎりまでふんばって、ピンチの連続でも(ウルトラマンガイアの主題歌をもじって)、絶対いいお酒を造るからな。」そう約束しました。息子は

 でも、お父さんががんばっても負けてしまったら、ボクがメビウスに変身して、助けに行ってあげるから。

 一瞬私は目頭が熱くなりました。しかし、よくよく考えると素直に頷けないものも感じました。
 最近の彼の言動を見ていると、その成長ぶりには目を見張るものがあり、そのなかでも特に話す(屁理屈をこねる)ことについては、私たちもびっくりしています。ああ言えばこう言う、素直に「はい」とは言わない生意気小僧です。彼にこの言葉を言わせたのは、彼の優しさなのか、それともはなから私が負けることを予測しているのか・・・。最近あの3歳児の本音を計りかねている私です。