蔵元便り   2・3月

 2月は雪の日が続き、かなり積もった日もありました。毎日毎日、いつ止むのかわからない雪を見ながらの作業に、正直ウンザリしていました。酒造りも全て終わり、ほっとしているものの、機械や道具を片付けてしまった蔵の中はがらんとし、にぎやかで笑い声の絶えなかった去年の10月からのことを思うと、この寒さと併せ、なんだか少々寂しい気分になります。
 どんよりとした空は相変わらずですが、梅が咲き始め、よく見れば枝には鳥が巣を作っています。「春はもうそこまで来ているんだ。」と実感し、心が軽くなります。
 生命の豊かさを感じる春。早く「お花見で一杯!(相変わらずの私の悪い癖)」と行きたいところですね。

春が来た?

 

誰のための「力」

 上にも書きましたが、本当に雪がよく降り、子供たちの膝まで積もった日もありました。でも子供たちは大喜びで、普段はねぼすけの息子も「雪が降ってるよ。」というと飛び起きてきます。先日、雪が積もった日の朝、「外に行こう!」という子供たちに連れられて公園に行きました。娘は「アタシはパワーパフガールズのブロッサムよ!」と言いながら走り回り、息子は「デュワッ!」とウルトラセブンのファイティングポーズをとっています。ははぁ、何考えてるかわかったぞ。案の定息子は「お父さん、ガンダー(ウルトラセブン第25話『零下140度の対決』でウルトラセブンと吹雪の中死闘を繰り広げた怪獣)になって!」と言ってきました。よし、いいだろう。お父さんガンダーは強いぞ。(←相変わらず幼い私)私たちは時折強く降る雪の中、寒さを忘れて遊びました。
 そんな息子ですが、最近「ぶっ殺す」などと物騒な言葉を使うようになり、「注意しなければ。」と思っていました。そんな折、「ボクは強いから、怪獣なんか全部殺してもいい。」と息子が言いました。私はさすがに気になり、息子に話し始めました。

 「お父さんが、なぜウルトラマンやヒーローたちを好きなのかわかるかい?なぜウルトラマンになりたっかたかわかるかい?」
 「強いから?」
 「強いだけじゃないよ。ウルトラマンはその強さで地球を、ここに住む全ての生きものたちを守るために戦うから好きなんだ。お父さんは、君のように小さい頃から動物が好きだったし、虫や魚も好きだったんだ。もちろん人間もね。そんな、みんなが住む地球を守りたかったからウルトラマンになりたかったんだ。怪獣をやっつけたいから強い力が欲しいなんて、一度も思ったことはないんだ。
 それに、簡単に『殺す』なんて言ったらダメだ。生きているものは全部、一度死んでしまったら二度と生き返ることはないんだぞ。この世で無くなってもいい命なんか、一つもないんだ。」
 息子はなんだか、分かったような分からないような顔をしていました。

 それから数日が過ぎた土曜日の夜、娘の様子が変です。ぐったりとして、まだ7時前なのに「眠い」などと言っています。すぐに病院に直行しました。診察が始まり、私と息子の二人は待合室で診察が終わるのを待っていました。息子は口数も少なく、そわそわして辺りを歩き回っています。口には出さないけれど、得体のしれない「病気」というものに侵されている妹のことを思うと不安な気持ちになるのでしょう。(小さい頃、弟がらみで何度も同じ思いをさせられたので、その不安はよく分かる私。その話はまた別の機会に)
 「そうだ!」突然、息子がポケットをごそごそ・・・。
 「はい、お父さん。」
 私に差し出したのは、ウルトラマンタロウの変身バッジでした。本人はウルトラセブンが変身に使う「ウルトラアイ」を持っています。あのいそがしい間に、よくこんな物準備したな。

 「お父さん、アヤはがんばってるよ。だって泣き声が聞こえないでしょ。でも、アヤが病気に負けそうになったら、ボクはセブンに変身する。それでもダメなときはお父さん、タロウに変身して。ボクはアヤを守りたいんだ!」

 私はその「お兄ちゃん」としての彼の言葉を聞き、息子と二人しかいない薄暗い待合室で泣きました。嬉しくて涙が止まりませんでした。

 「そうだよな。君とお父さんはウルトラマンだ。ウルトラマンの力はこんな時にこそ使うんだ。お父さんはあの時、この事が言いたかったんだ。強い力は誰かを傷つけるためにあるんじゃない。弱い者を救うため、守るためにあるんだ。君の持っている優しさや力は、間違いなくウルトラマンと同じだよ。」

 結局、娘は水ぼうそうでした。早い時期に診察してもらったため、症状も軽く済みました。
 私は「は〜い、全国の女子高生のみなさ〜ん(最近はヤッターマンにもはまっている彼。しかしなぜかドロンボー一味が好き。)」などと言って妹と遊ぶ(もうすぐ自分も水ぼうそうになることも知らずに)息子を見ていて、あの日の夜のことを思い出していました。「何のために力を使うのか」ということを。
 何もそれは、個人としての力だけではなく、企業や国家だってそうです。例の冷凍食品の話やクジラの話、理由もあやふやなまま戦争をしたがる国、そしてそれについていこうとする国など、素直に頷けない事が最近多いですね。私には、自分たちだけの利権しか考えず、自分がしている行為の向こう側にいる人たちのつらさや、苦しみ、恐怖を考えられないような人間こそ、この世で最も恐ろしい怪獣に見えて仕方がありません。