春は出会いの季節です。でも、別れの季節でもあります。出会いは大歓迎ですが、別れはできれば経験したくないものです。今年の春は我が家にも「別れ」が待っていました。
その別れは突然告げらました。昨年の7月号に書かせていただいた息子の大親友「マー君」と「ミー君」が引っ越すことになったのです。そのことを聞いた息子は「おかあさん、明日マー君のおかあさんに引越ししないように言ってくれ!」と大きな声で言ったそうです。大好きな親友を失いたくない、彼の精一杯の抵抗だったのでしょう。
昆虫が大好きで、絵がとても上手で、ひらがなをマスターし、カタカナまで書け、娘のことを「かわいい」といってくれる、ちょっと甘えんぼのマー君と、勉強が嫌いで、口が達者(咄嗟のウソは4歳児とは思えないほど見事!)で、お調子者で、私にカミナリを落とされてばかりで、体力だけが自慢の、磯野カツオを絵に描いたような息子はどういうわけか本当に仲良しでした。幼稚園が終われば一緒に帰り、お互いの家を行き来して一緒に遊び、息子一人のときでもウルトラマンの怪獣図鑑をみれば「これ、マー君家にあったよ!」と私にうれしそうに見せていました。息子の中ではマー君は特別な存在で、息子と同じように服や靴を汚すのが得意なミー君は、息子の先生でした。それは周りのみんなも認めていたようです。息子が休日にお母さんとスーパーに買い物に行ったとき、「今日はマー君は?」と友達から聞かれることが何度かあったほどですから。
そんな彼らでしたから、息子には離れ離れになることがとても応えたようでした。はっきりとは分からないものの、どこか淋しい気持ちになっていたようです。ただ、引越しのことを聞いた彼らも淋しかったでしょうが、そのことを子供たちに伝えなければならなかったご両親は、もっと辛かったと思います。子供の悲しむ顔を見たいと思う親はどこにもいるはずありませんから。
彼らの引越しの前の晩、やはりどこか淋しげな息子に「そうだ、メビウスを歌おうよ。君たち二人はメビウスなんだろ?」そう提案しました。
いますぐできることはなんだろう 銀河の彼方ココロの声が聞こえてる
はじめは誰もヒーローじゃない 違う形のただちっぽけな星なんだ!
ぶつかりあい励ましあい たちはだかる闇を越えよう
悲しみなんかない世界 愛をあきらめたくない どんな涙もかならず乾く
ボクらが変えてく未来 友情(きずな)はとぎれやしない
無限に続く光の中へ
ウルトラマンメビウス
ウルトラマンメビウス
途中から私は歌っていられませんでした。妻から聞いていたたくさんのこの子たちの話と、私が少ないながらも一緒にいた時の彼らとの思い出が、まるで映画のエンドタイトルのように私の頭の中を回っていました。「三段池公園にウルトラマン見に行ったよね。運動会のときに、泣いてるマー君に『がんばって』って言いに行ったよね。」というような具合で。息子は近づく別れのときに立ち向かうように、大きな声で歌っています。「進級すれば、また新しい友達ができるよ。」なんて言葉は絶対に言えませんでした。逆に、「淋しかったら涙を流せばいい。素直な感情に鈍感になることがオトナになることだったら、オトナになんかならなくてもいい。」と声をかけたいくらいでした。
「なあ、明日は『さよなら』じゃなくて『ありがとう』って言おうよ。だって君たちはこの空の下で太陽からエネルギーをもらい、地球という大地を踏みしめて戦うウルトラ兄弟なんだろ。どこにいたって空は繋がっているし、地球はひとつ。一人ぼっちじゃないんだ。君たちの想いが強ければきっとまた会えるよ。だからさよならじゃないんだ。それよりマー君とミー君、マー君たちのお父さん、お母さんに、そして君のココロのなかにいっぱいある思い出に、ありがとうって言おうよ。」
そういう私に彼は黙って頷きました。
別れの日は、彼らの心を見透かしたように冷たい小雨が降っていました。
別れのときがもう目と鼻の先にあるのに、みんな揃えばついついふざけて走り回ってしまいます。雨足が強まる中、びしょびしょになるのもおかまいなく元気に走り回っていました。彼らの笑顔は、私に切なさを誘うばかりでした。
最後に、握手して写真を撮りました。がっちりと握手をする二人、私には仲間との「
炎の友情」を自らの胸に描いた「メビウス バーニングブレイブ」が二人いるように見えました。何度も何度も「バイバーイ!」「ありがとう!」を繰り返す子供たち。そうだね、君たちが培ってきた友情はダテじゃない。君たちがお互いにしてあげたことは、きっとこれからも役に立つはずだよ。
家に帰ってきた息子は
「お父さん、オレ(!)は涙を流さないよ。これからは一人で戦えるから。」
息子の顔は紅潮していました。もう少しなにかしゃべったら涙が出そうでした。うん、そうだね。マー君もミー君もきっと同じことを思っているよ。さびしさを乗り越えたら、もっと強く、もっと優しくなれるよ。今日から君たちの新しい冒険の始まりだね。燃えさかる炎の友情を胸に立ち上がれ!空高く飛ぶんだ!メビウスたち!
最後に、マー君とミー君のお父さん、お母さん、本当にありがとうございました。息子さんたちはうちの子供たちに「誰かを大切にすること」を教えてくれました。こちらに来ることがありましたら、ぜひお立ち寄りください。いつでも大歓迎です。マー君、またカブトムシの幼虫が取れたら送るよ。ミー君、ウルトラマンの先輩として、ゾフィー兄さんのようにいつもこの子を(イタズラしすぎないように)見張っていてね。
ウルトラマンが縁で出合ったこの子たちです。いつかきっと勢揃いしてその勇姿を見せてくれるはずです。子供の頃ウルトラマンで育ち(狂い)、数々のウルトラの奇跡を見てきた
僕たちなら信じられます。そうですよね、マー君のお父さん。