蔵元便り   6月

 

 5月の連休は家族で実家に帰りました。弟の家族、妹夫婦も来て、にぎやかなゴールデンウィークになりました。今回は特に、私と息子にとってうれしい日が続きました。そう言ったらもう想像がつきますよね。そうです、ウルトラマンです。CSでウルトラマンタロウが一挙に放送されたのです。息子と二人でテレビの前にかじり付き(息子などは、まばたきすらせず)、タロウをずっと観ていました。「あっ、ゾフィーがきた!」「ウルトラ6兄弟だ!」とはしゃぐ息子。母などは「今年のこどもの日は、お父さんにもいいこどもの日になったね。」と呆れ顔。そりゃそうだよ。30数年前、息子がウルトラマンメビウスに出会ったのと同じくらいの歳で出会い、同じように胸をときめかせたヒーローがウルトラマンタロウだったんだから。

 そんなこんなで、連休中にすっかり子供に戻ってしまったわけではありませんが、やはり暖かくなると気になるのが「川」の様子(もっと暑くなると山だ)です。休みの日に息子と二人で行ってみました。網とバケツを持ち息子と歩く道中、心はすっかり少年時代に。学校から帰ると宿題もせずにランドセルを放リ投げ、弟や友達と連れ立って川へ向かったあの頃のような気分でした。
 川に到着し、見下ろしてみると・・・。います、います!まだ小さな稚魚たちが群れを成して泳いでいます。早速、捕獲作戦開始です。速い流れの中に網を入れてみるとカワムツが、石をそーっと持ち上げるとヨシノボリやスジエビが。珍しいところではナマズの子も獲れました。初夏を思わせる日差しの中、私は水面に顔を近づけ、スパイダーマンのような格好で魚を狙います。少年に戻った私は、もう完全にイタズラ小僧モード全開です。時間は経っても勢いはあの頃と一緒、あっという間に魚はバケツ一杯になりました。
 「やったね!」と自己満足している私に、突然水しぶきが。その向こうには帽子を斜めに(まさにイタズラ小僧風に)かぶり、全身びしょぬれで笑う息子が!息子は魚とりなんかそっちのけで、ダイナ(以前書きましたが)モード全開で川の中を走り回っています。暑い日だったこともあり、私もそんな息子がうらやましくなり、ついついジーンズの裾を捲り上げ川の中へ。息子は「お父さん、キングジョーになって!」「エレキングになって!」(共にウルトラセブンの怪獣)などと、ウルトラマンが水の中で戦った怪獣の名を次々に上げ、戦いを挑んできます(最近力がついて、パンチとかキックが痛いんだけどね)。私たちは時間の経つのも忘れて遊びました。
 最後に、家で育てる数匹だけを残し、あとは川に逃がして帰りました。帰り道、びしょぬれの自分が恥ずかしかったけれど、でも、息子とこんなに笑顔で遊べる環境が残っていることに感謝しました。

 家に帰り、新たな魚を入れるために水槽の掃除をしていました。すると、息子がなにやら騒いでいます。しばらくして、「お父さん!大変だ!お魚が飛び出しちゃったよ!」とカワムツを1匹手にして走ってきました。掃除も終わり、水を入れていたところなのですぐにそこへ。息子は心配そうな顔です。大丈夫、ちゃんと生きてるよ。それより、えらかったな。
 息子は、川では魚に触れるくせに、家に持って帰ってくると触れなくなるという変なところがありました。先程騒いでいたのもきっと、私を呼ぼうとしていたのでしょう。でも、いくら呼んでもお父さんは来ない。飛び出てしまった魚は弱ってくる。「なんとかしなきゃ」と勇気を出して魚を持ったんだと思います。

 「ウルトラマンの気持ちがわかっただろ?」
 水槽の中で元気に泳ぎだした魚を見ながらそう言いました。
 「君がこのお魚を何とかしなきゃって思ったこと、勇気を出して助けたことは、ウルトラマンが怪獣に壊されていく地球を、そこに住むみんなの命を守ったことと一緒なんだ。君が守ったのは小さくて、たった一つの魚の命かもしれない。でも大きさなんか関係ないんだ。このお魚もそうだし、お父さんも、君も、みんなそう。みんなひとつの命しか持っていないんだ。君は、このお魚のたったひとつしかない命を守ったんだよ。だからウルトラマンのココロと一緒なんだよ。地球っていうのは、こういう小さな命がたくさん集まっている星なんだ。どんなに小さくても、なくなっていい命なんかないんだ。」
 息子は自分が「ウルトラマンと一緒」と言われて嬉しそうに笑いました。生きものを大事にする心を、ずっと忘れないでいてくれな。
 その日、息子と娘はずっと水槽を見ていました。楽しかったし、優しい気持ちになれたし、有意義な一日でした。

 ところが翌日、朝起きて布団から出ようとした瞬間、身体中に激痛が走りました。起き上がれません。筋肉痛でした。昨日のスパイダーマンが悪かったようです。心は少年に戻れても、身体はそうではないことを忘れていました。

 少年老い易く学成り難し 一寸の光陰軽んずべからず
 未だ覚めず池塘春草の夢 階前の梧葉己に秋声 (たしかこんなだったと思う・・・。間違っていたらゴメンナサイ)

 後先考えずに遊びすぎ、今さら「ほどほどにしておけばよかった」などと痛感し、後悔した、脳みそだけはずっと子供のままだったことが判明した元イタズラ小僧。勉強嫌いで、体力だけが自慢の息子もそうならないように言って聞かさなければ。過ぎ去った時間は取り戻せないですからねぇ。

偶成 朱喜の教え