蔵元便り   7・8月

 子供たちの心は純粋です。でも、その純粋さは時として、大人にとっては残酷なほどまっすぐで、切ないほど気高いものに見えてしまいます。
 「蔵元便り」7月号はほぼ完成していました。でも、更新する前日に、私はそのことを息子にいやというほど思い知らされ、更新をやめました。おちゃらけた文章で、笑いを取ろうとしていた自分が恥ずかしくなったのです。
 7月に入って間もない頃、近くのスーパーに七夕の笹が飾られ、子供たちが自分の願い事を短冊に書くというイベントがありました。息子と娘もそれぞれの願い事を書いたそうです。その話を夕飯時に聞いていた私は、不覚なことに、娘の「ディズニーランドに行きたい」ということしか聞いていませんでした。
 それから何日かした休日の夕方、息子と散歩のついでにサイダーを買うためにそのスーパーに立ち寄りました。そこで息子が「お父さん、ボクはこれをお願いしたんだ。」と見せた短冊に書かれた願い事は

 「まーくんにあいたい」

でした。下手な字だけれど、一生懸命書いたことはすぐに分かりました。息子は得意げでした。そして私は、その無邪気な笑顔を見て胸が詰まりました。
 彼の大親友のことはここで書かせていただきました。彼にとって、どれだけ大事な友達なのかということは理解しているつもりでした。でもそれは私の勝手な思い込みでした。幼稚園の頃からの仲良しで、イタズラも一緒にやりつくし、最近でも顔を見れば「お互いおっさんになったなあ。」と笑い合える友達がいる私には、息子の本当の気持ちは分かっていなかったのです。

 最近の彼は幼稚園のたくさんの友達に囲まれ、みんなで遊びに行ったりと、とても楽しく過ごしています。でも、ふとしたとき(主にウルトラマンや昆虫を見たとき)に彼の一番の友だちのことが思い出されてしまうようです。なかなか会うこともできないため、楽しかったことを思い出しては「また遊びたい」と強く願うようになり、その願いを心の中にたくさん溜め続けていたのでしょう。七夕は星と宇宙の物語です。「夜空に輝く星には必ずウルトラマンがいて、ボクたちを見ている」と信じている彼は、「=星にお願いすれば絶対に叶えてくれる。」と考え、その切なる思いを短冊に書いてお願いしたのだと思います。
 七夕の夜は・・・ 曇りでした。薄い雲が空を覆い、月がその向こうに見えているだけでした。窓から星を探しただけでは見つけられませんでした。星が輝いていれば願いは届き、織姫と彦星のように会うことができると信じて疑わない息子は、どうしてもあきらめがつきません。「お父さん、外で探そうよ。」と私の手を引っ張り外に出ました。でもやはり、どこをどう探しても月しか見えませんでした。
 あきらめて家に入ろうとしたときです。息子が突然振り返り、月に向かって
「マー君に会わせてください!」と大きな声で叫びました。私は、直立不動で真剣に月に願う姿を見て胸が熱くなり、息子の両手を握りました。

 「今日は残念だったね。でも、ここ(心臓のあたり)をさわってごらん。君のここにはいつもマー君がいるだろ。だから君は一人じゃない。それに、マー君も君の事を忘れない限り、君たちはココロの中でいつも一緒なんだよ。前にも言ったけど、君が立っているこの大地にマー君も立っているし、マー君も今、同じ月を見ているかもしれない。離れているのは君たちがいる場所だけで、ココロはずっと、いつも近くにあるはずだよ。
 今の大きな声はきっと、ウルトラマンキング(ウルトラマンの長老、奇跡を起こす力を持つ。)が聞いているよ。そして、君たちが一生懸命頑張ったらきっと会わせてくれるはずだよ。そしてお父さんはキングに約束する、絶対に君たちを会わせるって。」

 そして、私も月に向かって心の中でつぶやきました。
 「ねえ、マー君。今度遊びに行ってもいいかな?コウはやっぱり君たち兄弟は特別なんだって。心の中ではいつも「会いたい」って思っているんだって。おっちゃんは君たちを一生の友だちにさせてあげたいんだ。コウのお願いを聞いてやってくれないかな?」

 いつもアホなことばかりやって、お母さんに白い目で見られる私たち。でも、今年は息子の純粋さに触れ、忘れかけていた大事なココロを思い出した、七夕の夜になりました。

 セミたちの声が鳴り響き、強い日差しが照りつける毎日です。夏休みも始まり、どこか「もうすぐお盆だな」という、のんびりした雰囲気になる頃です。
 7月半ばに幼虫から育てたカブトムシがたくさん成虫になりました。が、蓋をきちんとしなかったため、全部逃げられてしまいました(泣)。せっせと育てたのに・・・残念です。
 8月末までの長いようで短い「ボクたちの夏」、子供たちがいつまでも、豊かな自然の中でたくさん見つけられるような日本であって欲しいと願います。真っ黒に日焼けして、朝から晩まで網を片手に山や川を走り回ったボクたち。自慢できるような楽しい思い出と、ちょっと話せないようなイタズラもたくさん経験した夏休み。公園でみんな集まってDSをやっていて思い出ってできるのかなぁ?まあ、それも時代と言えばそれで片付くことなのかもしれませんが、「モノ」より「ココロ」が豊かな方が私は大事だと思っています。。
 心を子供の頃に戻して(「お前はいつもだろう」と言われそうだが)、数々のイタズラの思い出と共に、季節の野菜のトマトやキュウリを肴にして、きりっと冷やしたお酒で一杯行きたいものですね。

「ボクたちの夏」スタート!

一晩のうちにどこへ行ってしまったのやら・・・

月に誓った「約束」