蔵元便り   11月

 このページも長い間更新をサボってしまいました。本当は書きたいことがいっぱいあった(9月には息子の念願叶い、ミー君、マー君と遊べたことや、例の映画の話などなど)のですが、何だかんだと忙しい日が続きついつい今になってしまいました。今後はなるべくサボらないようにいたします。スミマセン。
 酒造りの時期を迎え、蔵の中は1年中で一番活気づき、朝早くからみんなの声が飛び交います。これからしばらくの間、あのお祭りのように騒々しく、でも神経をすり減らすような日々が続きます。

 我が家のメビウス君たちは、相変わらず元気いっぱいで走りまわり、「怒られるのが趣味なんじゃないか?」と思うくらいに暴れまわっています。そんな息子ですが、最近おばあちゃん(私の母)から「お父さんはすごいんだよ」とある話を聞き、私のことを少しは見直したようです。

 その話は、私が小学校低学年の頃のことです。当時スイミングスクールに通っていた私は、進級テストを受けました。「そんなの簡単に泳げる」と自信満々だったのですが、いざ本番になると緊張したのか身体が思うように動かず、息が苦しくなり、途中で足を着いてしまいました。練習では泳げていたのに、本番で失敗するなんて・・・ものすごくショックでした。
 「なんでできないんだ!」と自分自身に腹が立ちました。
 テストが終わり、皆解散しました。でも、どうしても自分のふがいなさに納得いかない私は一人残って、先生に「今度やったら絶対泳げるから、もう一回だけ泳がせてください。」と頼み込みました。その迫力に押されたのか先生は、「じゃあ、あと一回だけね。」と認めてくれました。再チャレンジの時のあの苦しさは今でも忘れません。「自分から大見得を切った」ことや「あと一回」という言葉が重くのしかかり、普段は何てことない息継ぎもろくにできず、足や腕の動きはぎこちなく、私を何とか前に進ませていたのは「くやしい」の一言だけでした。
 結局何とかゴールまでたどり着き、進級することができました。母は私のことを褒めてくれました。私はくやしいから、それにカッコ悪いからやっただけのことなのに褒められるなんて、ちょっと不思議な気持ちでした。
 
 その話を聞いた息子は「お父さんはウルトラマンだ!」と思ったと言います。以前にも書いた「最後まであきらめず、不可能を可能にする。それがウルトラマンだ!」という言葉を思い出したのでしょう。9月半ばに例の映画が公開となるとどうしても観たくなり、わざわざ京都市内の映画館まで行った私たちバカ親子は映画のストーリーにすっかり感化され、息子は「この世界とはちがう(並行する)世界がいくつもあって、その中の怪獣がいる世界でボクはメビウスに、お父さんはタロウになって一緒に戦っているんだ。」と本気で信じ込んでいます。そんなときに聞いた話(でもそんなにたいしたことではないと思うが)だからこそ息子の胸に響いたのでしょう。
 「どんなに苦しいことでも最後の最後まで頑張ったら、絶望しか見えないものでもその中で力いっぱい戦えばその先にきっといいことが待っている。」
 私はあの時そんな風に感じていたはずです。

 夜、布団の中で息子と話をしました。
 「一回や二回の失敗ですぐにやめちゃったり、いつまでも泣いていたら何にもできなくなっちゃうだろ。どんなにカッコ悪くたって、絶対にあきらめず“ボクはやってみせる”って思い続けることが大事だと思うな。
 君のココロにも、お父さんのココロにも、人間ってみんな心の中にカラータイマーみたいな光を持っているんだよ。それはいつも光っているんだけど弱い光なんだ。でも、どんなに苦しくても、どんなに泣いてもあきらめないでがんばったら、心のカラータイマーは青く、強く輝き始めるんだ。そしてその時、今までどうしてもできなかったことができるようになる。そうやってがんばり続ける人のことを“ウルトラマン”って呼ぶんだとお父さんは思うな。」

 翌朝、仕込みに向かう私は、出がけに息子が言った映画の中の台詞を思い出していました。
 「本当の戦いはこっからだぜ。」「この世界は滅んだりしない。」「この世界を、僕が守る!」

 甑から立ち昇る蒸気を見つめながら、これから半年近く続く酒造りのなかで幾つもぶつかるであろう困難に、真正面から立ち向かって行こうと決心しました。

今年もよいお酒ができますように

 今年も酒造りが始まりました。毎年のことですが、この時期は一年で一番気力も体力もみなぎるときです。おやっさんとも、少しでも良い酒を造ろうと「ああだ、こうだ」と話し合っています。今年仕込んだ1本目が上槽され、「しぼりたて 新酒」として出荷されるのは12月上~中旬の予定です。
 「手間をかけてでも、良いと思うことはやっていく。」それは今年も変わりありません。どんなよいお酒ができるか・・・。ご期待ください!

今年最初の酛。徐々に酵母が働き始めています。

おやっさんと、池成さん。おやっさんと同じ但馬出身の方です。真面目で気さくなおじさんで、頼りになります。

お父さんって本当は・・・