蔵元便り   3月

あしたははれる



 「あしたははれる」は2月のある日、息子たちが幼稚園の発表会で歌った歌です。NHK教育の「おかあさんといっしょ」で歌われていたものだそうです。これからの季節、たくさんの幼稚園で歌われるであろうこの歌の歌詞を見たとき、私にはとても切なく感じられました。そのうえ息子が「今度の発表会は『あしたははれる』を歌うんだ。ボクはマー君に聞こえるように大きな声で歌うんだ。」などというものですから、さらに胸の奥が締め付けられるような息苦しささえ感じました。

 息子の大親友のことは今さら説明することはないでしょう。息子は今でも、「一番の友達は?」という問いに(誰が聞いても)「マー君!」と即答します。やはり、息子にとっては今でも特別な存在です。
 思い出せば一年近く前、彼らの引っ越した夜。私には強がって(「男は簡単には泣くな」と常々言われているから)「オレは一人で戦える!」と言っていたものの、布団の中でお母さんに「やっぱり寂しい。」と泣いていたこと。何を隠そう別れからしばらくした後に、この「あしたははれる」を聞いて「マー君を思い出して悲しくなる。」と言っていたこと。七夕の夜、曇り空の下、月に向かってお願いしたこと。雪が降り、私と雪合戦をしていて、それまでの笑顔が一瞬曇り「マー君も雪が好きだったから、ここにいたらよかったのに。」と小さな声でつぶやいたこと。どれをとっても、それまでの思い出が楽しすぎる分だけ、その反動も大きいようでした。それは親も一緒で、マー君のお父さん、お母さんの子育ての考え方を尊敬し、お手本にしていた私たちですから息子ほどではないにしろ、少なからず喪失感に似たようなものを感じていました。ですから、「大きな声で歌うんだ。」という息子の言葉を、私は「どうしても忘れることのできない寂しさ」を精一杯表現した言葉なのだろうと解釈していました。
 
 発表会の日、私は見に行くことはできませんでしたが、夕食のときに見たビデオにはしっかりと大きな声で歌う息子の姿がありました。

 かなしくて なきたくなったとき
 おもいだしてほしい ぼくらのことを
 くもにのり とんでゆくからね
 ひとりぼっちじゃないよ
 てをつなごうよ
 すきだから きみがすきだから
 ともだちさ いつもいつまでも
 さあさ
 ゆめじゃない みどりのそうげんに
 みんながあつまるよ きみとうたうよ

 すきだから きみがすきだから
 ともだちさ いつもいつまでも
 さあさ
 げんきだせ なみだふきとばせ
 こえをあわせ うたおう
 あしたははれる
 あしたははれる
 あしたははれる

                      作詞・作曲 坂田修

 息子とお風呂に入り、「大きな声でがんばったね。寂しさを吹っ飛ばすことができた?」と聞いた私に

 「ちがうよ、お父さん。ボクが泣きそうになったとき、マー君の声が聞こえたら元気になるでしょ。マー君も泣きそうなときボクの声が聞こえたら強くなれると思うから、『マー君、ボクはここだよっ!元気だよっ!』って大きな声で歌ったんだよ。」

 私の考えは完全に間違っていたことが分かりました。私よりもっともっと前向きな思いを持っていたことに、「寂しさ」のちょっとだけ先に歩き出した息子の強さを見ました。そしてこの歌の歌詞を、とても明るい気持ちで受け取れるようになりました。そうだね、君たちの明日はきっと晴れているよ。

 息子の今の夢は(あの映画を観て以来)「大きくなったら帆船を宇宙船に改造して、みんなで宇宙に行くこと」です。リーダーのミー君に、頭のいいマー君(反重力システム、頼んだよ!)、そして体力だけが自慢の息子。なるほど、ぴったりのキャスティングじゃないか。そうなったら、ミー君たちのお父さんは冷静でやさしいから・・・、血の気の多い私は・・・ すみません、要らぬ想像までしてしまいました。でも、本当にそんなことができたら素敵だね。素晴らしい未来が来ることをお父さんたちは祈っているよ。
 
 君たちのココロの中に、いつまでもウルトラの星が輝いていますように・・・。