蔵元便り 7月

スーパーパイロットでいいじゃないか

 先日、家のドアを開けたところで、立派な角を持ったノコギリクワガタを見つけました。小躍りしながら子供たちに見せ、飼育ケースを引っ張り出してその中に。「やったね!ラッキー!早起きは三文の徳っていうんだよ。」と大はしゃぎな元少年。(妻からは、「体は大人、頭脳は子供。大きくなっても頭脳は同じ。」と名探偵コナンと真逆なことを言われているのですが・・・)気がつけばもう7月、梅酒のつけこみも無事終わり、あとは梅雨明けを待つだけ!さあ、虫捕り、魚釣り、やる事はたくさんあるぞー!(だから子供だって言われるんだよ。もっと仕事の事考えようよ。)

 6月のある日、息子の剣道の試合を見に行ってきました。小学校入学と同時に始め、今年で3年目。そろそろ形もサマになってきました。息子も1つか2つは勝てるような、根拠のない自信があったようです。試合前、息子に「いいかい、自分を信じるんだ。絶対勝てるって思うんだ。」と一言言って彼を送り出しました。試合は互いに一本取り合い、あと一本取ったほうが勝ちです。私はその時、ついつい大声で「下がるな、足を止めるな!」と言ってしまいました。こう見えても、私だって剣道経験者。彼の悪いところなんてすぐに分かります。ですが、私は今まで試合でも、稽古でも絶対に声を掛けることなどありませんでした。それは、彼を教えてくれている道場の先生方に失礼に当たるから。それでも、あの時、圧倒的に稽古量が多く、見た目にも洗練されたスポーツとしての剣道(息子の道場は、スポーツとしてではなく、武道としての剣道に重きを置いていて、それが息子を入れるきっかけだったのです)を見せる相手に、完全に劣勢ながら一本取り返した息子の姿に胸が熱くなり、失礼を承知で声を出しました。
 結果は、まあ、ご想像の通り負けでした。そして案の定、面の奥の彼の顔は、涙でクシャクシャでした。本当は、いろいろダメ出ししたかったのですが、

 「悔しいかい?悔しいんだったら、もっと真面目に稽古しなきゃな。最近、仁王門登山レース(市内で行われるマラソン大会)とか、そんなに練習しなくても楽にいい成績取ってるだろ。だから神様は、キミが一番勝ちたいはずの剣道の試合で『そんないい加減なことじゃ勝てないよ。』って教えてくれたんだよ。相手の子はキミの何倍も、何十倍も努力してるんだ。練習量が絶対的に足りないんだから、あの子のことがXラウンダー(最近、息子はガンダムにハマっているので、その中に出てくる言葉で。今のガンダムは人気がないって言うけど、息子は見てるんだよなぁ?)のように見えたかもしれない。でも、そのXラウンダーから一本取ったじゃないか。惜しいメンもたくさんあった。だから、お前はスーパーパイロット(同じくガンダム用語)になれ。Xラウンダーじゃないけど、Xラウンダーに負けない、すげえヤツになれ。そのためには、何をしなきゃならないか、分かるな。」
 
 そんな、他の人が聞いたら何のことやらさっぱりな言葉を掛けていました。(また妻の目が冷たかった・・・)
 そういう私も中学時代の成績なんてたいしたことありません。でも、もっと一つ一つの稽古に真剣にぶつかって行ったのは本当です。息子のように小さい頃からやっていた人の剣道は強くて、綺麗でした。昔の運動部特有の、上級生からの理不尽なシゴキもありました。そんな劣等感や肉体的苦痛に耐えられたのは、「絶対にあの人達に勝ってやる。だからオレは、何があってもにここから逃げ出さない。」ただそれだけでした。逃げないで、ぶつかって行けば行くほど、彼らは認めてくれました。息子に剣道をさせたのは、礼儀を覚えることや、体力の増強だけが目的ではありません。「負けたら悔しい」「絶対に負けたくない」「勝ったら苦労なんて吹き飛ぶ」そんなことを感じて欲しかったのです。今回、あんなに悔しがる息子を見て、成長しているのは身長だけではないことが分かりました。その悔しさを忘れずに、次の試合がんばれよ。

 今年4月、息子がそうしたように、娘も入学とともに剣道を始めました。兄ちゃんの稽古に付いていっていた娘は、なかなかスジが良さそうです。気の強さといい、ピアノのレッスンで、泣いてもできるまで頑張る姿を見ると、期待は膨らみます。だからね、兄ちゃん、真面目に稽古しないと来年の団体戦は、「妹が大将で、キミが今年と同じ先鋒」なんて、お父さんのカラダとノーミソのような逆転現象が起きかねないからね。