蔵元便り 3月

6 till I Die


 あの恐ろしい東日本大震災から2年が経ち、私にとってあの日からの地獄のような数週間も、やっと落ち着いて思い出せるようになってきました。
 「なんで京都の片田舎の人間が、あのとき少しの揺れすら感じてない人間がそんなこと。」 
 って思うかもしれませんが、私たちにとって、忘れたくても忘れられないものが東北にはあります。それは、以前も書きましたが、私が何年間か仙台を中心にサラリーマン生活をしていたこと。そしてもう一つ、あのときには絶対書けなかった(どうしても心の整理が付かなかった)ことですが、私の妻の叔父夫婦が津波で亡くなったこと。つまり、妻の体には1/2、子供たちには1/4、福島の、それも南相馬の血が流れているからです。
 叔父夫婦は、しばらく行方不明でした。私は、妻に何と声を掛けて良いのか分からず黙りこくり、子供たちは、そんな私たちを不思議そうに見ていました。重苦しい空気が何日か流れ続けたある朝、ニュースを見ていた妻が「あ、あの球場、福島の家のそばにあった球場だよ。あそこがあんなじゃ、・・・もうだめだね。」とつぶやきました。私はもう限界でした。クルマに飛び乗り、ひとけの無いところまで行き、ステアリングを抱え込んで泣きました。恥ずかしいけれど、大泣きでした。心境は、以前書いた、小学生のボクが広島で感じたことそのままでした。
 「どうしたら、この悲しみからみんなを助けられるんだ。どうしてオレにはその力が無いんだ。」
 ・・・まあ、ちょっとはあの赤と銀色のヒーローのことも思ったけれどね。今すぐ飛んで行きたいってさ。
 まだまだ、元の生活を取り戻すには長い長い時間がかかると思いますが、頑張りましょう。私にできることは何でもします。

 18 till I die (死ぬまで18歳)は、私の好きなカナダ出身のミュージシャン、ブライアン・アダムスの曲です。今回の蔵元便りのタイトルは、いろいろ考えました。でも、最終的にはいつまでたっても大人になりきれない(ついこの間も「コドモ」って言われたし)私には、こんなタイトルが相応しいかと思います。
 ではなぜ「6 till I die(死ぬまで6歳)」なのかというと、今年も全ての酒を絞り終え、少しは心に余裕が出てきました。そして自分自身を振り返ったとき、今の自分を酒造りに突き動かしているのは「好奇心」という、あの頃にたっぷりと培われたものだと感じたからです。小学校に入りたての私は、色々なことに好奇心を示しました。特に生きものは大好きで、虫も魚もカエルもトカゲも、何でも捕まえて、飼ってみなければ気が済みませんでした。母は、毎日のように気持ち悪いモノを捕まえてくる私に何も言いませんでした。マムシだけはNGでしたが。物をいわず、表情がない彼らを飼うことは難しく、幾つもの小さな命を無駄にしました。でも、その経験の上に立っているからこそ、「麹菌」や「酵母」というさらに小さく、繊細な生きものにも向かい合えているんだと思います。「どうしたらコイツたちが機嫌良く発酵してくれるだろうか?」「どうしたらもっともっと皆さんに喜んでもらえる酒ができるのか?」ただでさえ、「朝も夜も関係なし、寒い、キツイ」。こんなこと好奇心が無ければ、モノ作りが好きじゃなきゃ、やってられません。
 まあ、年齢を重ねてからも、好奇心は相変わらずで、中〜高校時代はクルマのプラモデルをアホのように作り、そのどれもを改造し、「これは○○○のマフラーとエアクリーナーを着けている仕様」とか言って父親に呆れられたり、実際運転免許を手にしてからは、スピードへの好奇心からアイルトン・セナやネルソン・ピケを気どり、無謀にも物理の法則にケンカを売ってみたり。おかげで、手痛いしっぺ返しも食らいましたが。(危険ですからマネしないように)こんなことでも、いつか役立つこともあるでしょう。
 今も好奇心は途切れることなく湧いてきます。人一倍好奇心が強かった6歳のボクのままです。気持ち悪いモノに何にも言わなかった母と、私に飽きられて放ったらかしにされた生きものの面倒を、「しょーがねーなー。」って言いつつ見てくれた父に感謝です。

「18 till I die」の歌詞をちょっと拝借して

6 til I die - gonna be 6 til I die                  ずっと6歳でいよう 死ぬまでずっと6歳で
ya it sure feels good to be alive                 生きてるって 最高だろ
someday I'll be 6 goin' on 55! - 6 til I die           僕は そのうち 55年生きてる6歳になる
ya there's one thing for sure - I'm sure gonna try     一つだけ確かなことは 僕は必ずやってみせるってこと

 ほらね。こうやって英語の歌詞にしてみると、普段から「体は大人、頭脳は子供。大きくなっても頭脳は同じ。」な〜んて言われている私でも、ちょっとはマトモに見えてくるでしょ。「それはそれでいいじゃないか。」って思うでしょ。言い訳だけど。