ここでは1.6mmΦ6N銅単線を使った自作ラインコードの工作過程を紹介する。材料、部品についてはできるだけ指定の物を使われたい。一定の結果を得るため、事故を防止するためである。特に、テフロンチューブ、WBTプラグ、ホットメルトなど、信号経路に直接係わっている部品には細心の注意を払って欲しい。 このラインコードを自作し、実用に具し、仮に何らかのトラブルが起こったとしても、当方では一切責任を負えないので、その点はご承知置き願いたい。ただし、製作についての疑問点、質問、問題提起などは大歓迎である。 |
材料 工程1〜2 3〜4 5〜6 7〜8 9〜10 11〜12 13〜14 15〜16 17〜完成
これまでにもAE86さんの掲示板などでちょっと話題にもなっていたコードがこれである。 山本音響工芸販売のACROTEC製1.6φ6N銅単線を芯線に使用。線材は銅のハリガネ状態、まったくのハダカ線で販売されるので、用途は自由自在、工夫次第で何にでも仕立てる事が出来る。 |
このコード以前は強電用途の2.0φVVFケーブルにピンプラグを着けて使っていた。撚り線には無い力感と切れの良さを聴かせたが、何処か粗い感じがあり、常に気になっていたのだった。 何か他に良い結果をもたらしてくれるものはないか。そう思っていたところへある日「無線と実験」誌上の一つの広告に目が止まった。「山本音響工芸」である。細かな字で沢山の製品が紹介された広告の片隅に「日鉱共石(ACROTECの旧名)製1.6φ6N銅単線」とあった。直感的に「これはいける」と思った。 |
そこで、自作してみることにする。 写真のものは、試行錯誤の末にたどり着いたTYPE4、長岡先生にお使いいただいたのも、これである。 ある程度見られる物になっているが、最初に作ったヤツはとてもお見せできるようなシロモノではなかった。その頃はまだ、質感の良い熱収縮チューブも、SF(FL)チューブも全く知らなかったし、ピンプラグは一番安い1個50円を使っていた。 TYPE2になって、少しスマートにできたので先生に試聴していただいた。 「透明度が高く、非常に良いコードです。でも、ちょっと金属的な響きが乗るねえ」。 そうか、よし、もう少しマスを付ければ素直さが増すかと、TYPE3、TYPE4の製作へつながっていく。 以下では、TYPE4の製作を順次紹介していきたい。これらは一つのテストケースであって、決定版ではない。よって、改善、工夫を加えられるのはまったく自由である。 |
ステレオペア、1mコードを作るのに必要な材料、その1。 上段左 1.6mmΦ6N銅単線 4m 上段右 ニットー電工 テフロンチューブ AWG#14 4m 下段左 同 テフロンテープ 13mm×0.08mm 2巻 下段右 同 自己融着テープ bP5 1巻 6N単線は山本音響工芸、テフロンチューブとテープは秋葉原のオヤイデ電気、自己融着テープは町の電気屋さんで、それぞれ求めた。 テフロンチューブ、テープは山本音響工芸でも手に入るし、自己融着テープもこの銘柄でなくても全く差し支えない。材料、作業ともに、多少違っていても大勢に影響はないと思う。 その辺は’いい加減’でいこう。 |
材料 |
材料その2。 上段左 30mm幅ブチルゴムテープ 1巻 上段右 6mmSF(FL)チューブ 5m 上段右中 10mm幅鉛テープ 下段上から 熱収縮チューブ 8mm 透明 4本、12mm 青 4本、白 赤 各1本 ブチルゴムテープはニットーのものが使いやすい。スガワラのものは柔らかすぎて、この工作には不向きだ。SF(FL)チューブ、熱収縮チューブは秋葉原のタイガー無線で買うのが良いと思う。通販でもとても親切に対応してくれる。鉛テープは、TGメタルで大判のシートを買い、10mm幅に切って使うのが一番安く上がる。面倒だが。 |
材料その3。 左 ピンプラグ WBT WBT‐0108 4本SET 中 ホットボンド(ホットメルト) 右 ホットガン WBT‐0108は、無ハンダスクリューロック式で単線向き。高価だが安全性と音質で是非使いたい。ホットボンドはピンプラグと芯線を固定させ、安全性を更に高めるために使う。固定目的だけならエポキシでも良いが、復元性を考えると躊躇する。 以上が必要材料だが、各価格については、それぞれでお調べ願いたい。おおよその総額は30,000円程度か。高価だと思われるかもしれないが、その約50%が、ピンプラグにかかっている。 |
工程 1 | 材料が揃ったら、製作を始めよう。以下の写真では1mと1,2mの2ペア同時進行で作っている。 芯線、テフロンチューブから1m4本を切り出す。この時、芯線の方向を自分なりに決めておく。どっちが入口出口でも良いが、揃えておいたほうがいいと思う。 チューブに芯線を通し、それを2本組にして、20cm〜25cm置きにテフロンテープで止めておく。次の工程でテープを巻き易くするためである。写真はその様子。 このままでは極性がわからなくなるので(テスターであたれば良いのだが)何かでマークしておくと便利だ。山本音響工芸では、色つきテフロンチューブを用意しているので、それならなお便利である。 |
工程 3 | 2の上に自己融着テープを重ねて巻く。逆巻きである。 テープの幅が1/2になるくらい、テンションをかける。そうでないと’自己融着’せず、グワイの悪いことになる。 |
3の上からもう一度自己融着テープ、3とは逆巻き。同じく、充分にテンションをかけて。 しかし、かけすぎるとブチ切れてしまうので、そのへんはテキトウに。 こうして、ぎゅうぎゅう締め上げながら巻いていると、なんとなく不規則な撚りが掛かってくるが、そういう細かいことは気にせず、どんどん先へ進む。 |
工程 4 |
工程 5 | 4の上からテフロンテープ、4と逆巻き。 かなり引っ張って巻いたので、全体的に白っぽくなっている。デクデクと太くなって悲しい思いをしたトラウマの成せる業? ブチ切らないよう注意して。 |
ヒートガン | 5を8mm透明熱収縮チューブに通し、収縮させる。 この時、是非使いたいツールが左のヒートガンだ。これがなければドライヤーなどで代用するのだが、温度が上がらずうまくいかない。オヤイデ電気で買える。 |
工程 6 |
工程 7 | 6で収縮させたチューブは、冷えるとかなり硬くなる。そのままだと鳴きが気になりそうな質感なので、その上から自己融着テープを巻く。5で巻いたテフロンテープと逆巻き。 この辺りまで来ると巻くのがだいぶイヤになってくるが、これからまだまだ巻くので2、3日ほったらかしても全くかまわない。 |
かなり疲れてきたところで、もっともイヤな工程。ご存知、ブチルゴムテープである。 30mm幅のテープを半分の15mmに切ってから、重ならないように隙間なく巻いていく。勿論、7とは逆巻きだ。 半分に切るのは、30mmのままでは綺麗に巻けないから。幅広のテープをうまく巻くのは極めて困難である。難しいことはできるだけ避けたい。 切り方は、テープをほどかない状態でのまま、おおよそ1/2あたりに目算をつけ、カッターでザクザク切る。刃が届かなかったところまでテープを使ったら、また切る。この繰り返しである。多少、幅が違っていても問題なし。 この時、セパレーター紙は剥がさずにおく。ここで剥がしてしまうと、あっちにひっつき、こっちにくっつき、あたり一面ブチルだらけになるので、ご注意。 巻き始めと巻き終わりは、普通のセロテープで養生しておくことを薦める。セパレーター紙が端から勝手にペロペロ剥けてくるからである。 |
工程 8 |
工程 9 | セパレーター紙を剥がしながら、10mm幅に切った鉛シートを隙間なく巻く。8と逆巻き。鉛は単純に重量付加が目的であって、電気的なシールド等を狙うものではない。 5mm程度の隙間を開けて巻けば、仕上った時やや曲げやすくなる。この辺りはお好みで。 ここではTGメタルのシートではなく、東急ハンズで求めた10mm幅鉛テープを使っている。これはどちらでも良い。例えば、釣りに使う板オモリとか。 ところでこの写真、ちょっと工程10に入りかかっている。 |
更にその上からまたまた自己融着テープを巻く。9の鉛テープとは逆巻き。テンションかけるのを忘れずに。 ここまで進むと断面が円型に近くなり、なんとなくコードらしくなってくる。完成は近い?。いやいや、「巻き」の作業があと一回残ってますぜ、ダンナ。 やれやれ。 |
工程 10 |
工程 11 | さあ、「巻く」作業はこれで最後だ。10の上からテフロンテープを逆巻き。写真でみるように真っ白になるほど引っ張って巻く。ブチ切れ寸前である。しかし、ここでしっかり締め上げておかないと仕上がりがバッチイことになるので、がんばろう。 この時点でコード全体の感触は、相当硬くなる。 |
工程12の前に、実はもう一工程あるのだが、僕のミスで写真をとり忘れてしまった。申し訳ない。 11でできたものに青の12mm熱収縮チューブを被せ、収縮させる。その後、この工程12へ進むのである。 収縮させ終わったら、SF(FL)チューブを被せる。編織構造のチューブのため、被せる前にキッチリの長さで切ってしまうと足りなくなるから注意。拡げると短くなるわけだ。 切らずに被せ、よくしごいて密着させ、ちょうどいいところにマークし、一旦コードを抜いてから切る。切る時はテフロンテープをマークの上に巻き、その上から切らないと、切り口からどんどんバラけてしまい収拾がつかなくなるので上手くやって欲しい。 被せ終わったら、写真のように両端をテフロンテープでしっかり締めておく。 これでコードらしくなってきた。次はいよいよピンプラグを取り付ける。 |
工程 12 |
工程 13 | WBT‐0108を取り付けたところ。拡大写真ではないので、見辛くて恐縮である。 コールド側の芯線は、ホット側より少し短く切り、接点に差し込んでピンプラグに付属のレンチでしっかりとネジ止めする。 圧着だけでは不安だという人は、さらにハンダで固めるのも良いが、復元は困難になると思う。復元が必要なければ問題はない。熱をかけすぎないよう、手早く作業することを薦める。ここではハンダは使っていない。 皮膜の端、テーパーがかかっているが、ここをできるだけしっかりプラグに押し込むことが出来るように、芯線の長さを調節してほしい。 ここがこのコードの、正に「ネック」である。極めて硬いコードなので、取り付けが甘いと実際の使用時、事故になりかねない。 |
芯線をしっかりと圧着できたら、プラグの切り欠き部分をホットボンドで充填する。コードを曲げた時、芯線の勝手な動きを抑え安全性の向上を狙う。 これはコード側だけの問題に留まらず、接続する機器、スピーカー等も含めてのことなので、ここは省略せず、きっちり作業されたい。 充填する素材はホットボンドに限定しない。例えばエポキシ接着剤、パテなども考えられる。しかし復元性、固化の速さ、作業の簡便さ、溶剤による障害など諸々の問題を睨んでいくと、ホットボンドが妥当ではないかと思う。 もし、更に適すると思われる素材をご存知の方がいらっしゃれば、是非ご一報願いたい。 さあ、完成まであと僅かである。 |
工程 14 |
工程 15 | 充填できたら、15分程度静置して、充分硬化させる。 次に、プラグとコードの接合部にある段差部分をホットボンドで埋める。やや盛り上げるようにしておき、その上から50〜60mmに切った赤(右ch)、白(左ch)の12mm熱収縮チューブをかける。この時、プラグに刻まれた滑り止め部分に少し被るようにする。ヒートガンで熱していくと、チューブが収縮すると同時に、盛り上げておいたホットボンドが融け始め、隙間にも入り込んでいく。 収縮が終わったら、まだ熱いうちにネックの部分を指で適宜整形する。少々コツを要する作業だが、やり直しは利くので上手くやって欲しい。 |
全部にチューブを被せ終わった。硬化のため暫く静置する。 一番最初に決めておいた、コードの方向性をどこかにマークしておく。僕は工程15のチューブに矢印を書き込んでいるが、これはそれぞれの工夫でどうにでもなるだろう。 |
工程 16 |
工程 17 | 完全に硬化したら、WBTお得意、コレットチャック式のスリーブを装着して...。 |
遂に完成! 辺りには、永い道のりを象徴するごみの山。やっと辿り着きました。お疲れ様。 さて、このコード、音の方はどうなのだろう。ほんとにVVFコードを凌ぐことができるのか?長岡先生にご指摘頂いた「金属的な響き」は抑えられたのだろうか? この後は、実際につないで試してみることにしよう。 |
完成 |
接続と試聴 | 当時(2年半前)のシステムをスクリーン側から見たところ。音声系は全て6NCuコードになっている。現在も基本的には殆ど変化はない。 以前愛用していた2mmΦVVFコードと比較して、特に改善されたのは繊細感と透明感であった。芯線の断面積が小さくなったので、低域のパワーが落ちることを懸念したのだが、これは杞憂におわった。全く問題ない。 使用開始直後は、まだ金属的な感じが残っていたが、ひと月ほどで消えてしまった。鉛による重量付加が効いたというよりは、芯線にかかっていたストレスがほぐれた結果と言うべきであろう。 WBTは確かに高価である。しかし、この音を聴いてしまうと50円プラグには戻れない。決して50円はダメだと言っているのではない。WBTが極めて優れたプラグだと言う事だ。接点の曖昧さを減らすことが、これほど音を良くするとは思っていなかった。特に低域の歪み感が、大幅に改善される。 ただし、使い勝手はあまり良いとは言えない。 |
その頃使っていたDVDプレーヤー、SONY DVP-S7000の背面パネル。左端の音声出力に挿してあるが、曲げられる限界がこれくらいである。コードとプラグの接合部を急角度に曲げるのは非常に具合が悪い。 挿す前に充分フォーミングしてほしい。挿してから調整すると、機器のジャックに無理な力がかかり、破損の危険が大きい。長さを決める時、充分な余裕を見て作るのが望ましい。 ラックを壁に沿わせて設置している場合、壁とラックのクリアランスを最低250mm、できれば300mmは取りたい。硬いコードが後方へ出っ張るからである。 硬さとともに問題になるのは、自重だ。非常に重いのである。一般的なオーディオ用コードが1mペアで180〜220gくらい、このコードは450〜500gに達する。音に文句はないが、極めて使いづらいコードである。 |
プリアンプ、C-280Vのリヤパネルである。コードがかなり錯綜している。ちょっと苦しいが、この程度までは行けるということだ。 WBTのプラグは挿してからスリーブを締めなければならない。僕のセッティングのようにプリが奥まっていると、挿し替えがほとんど苦行のようになる。ケツアツが上がりそうだ。長岡先生は「自分ではできないね。僕の歳になると危険ですよ」とおっしゃっていた。先生のプリは、もっと奥まっていたっけなあ。確かに苦しかったなあ。 最近、山本音響から6NCu2mmΦ単線が発売された。1.6mmΦ金メッキ仕様も出ている。これらを使って自作すると、どんな結果が得られるのか、実に興味深い。好奇心が異様に強い僕としては、我慢できそうにないのである。 ナマケモノのクセに。 |
一昨年12月、最後に方舟へお邪魔した時、撮った写真である。CD〜プリ間とプリ〜パワーアンプ間にこのコードを使っていただけた。 CD〜プリ間のものには白いチューブを、プリ〜パワー間には青いチューブを使ってある。プラグは全てWBT−0108である。 TA−N1へ繋がっているコードが少し長く、先生が「ちょっと長いかな。もう少し短いほうがいいね」とおっしゃったので、「それじゃあ次回お邪魔するときは短いやつを作って持ってきます」と言ったきり、約束を果たせなかった。 今もこのままなのだろうか...。 |
方舟での使用状況 |