箱船への道 II

外壁補修 階段室 外壁塗装 仕上げ塗装 床塗装 天井塗装 外装完了 2階壁紙

1階壁紙 スクリーン金具 階段室カーペット 電源引き込み 火入れ 完成!


 ブロック壁の上から石膏ボードを貼る。全面接着ではなく、1枚あたり9点接着という感じである。セメント系ボンドを直径10cmくらいの玉にして、それをブロック壁にペタリとくっつけ、その上にボードを押し付けて接着する。GL工法というのだそうだ。この方法だと、ブロック壁と石膏ボードの間に10mm程度の隙間ができることになる。
 物の本によると、遮音が必要な部屋にとってこの工法は最悪の結果を招く、とある。詳しい事は書き切れないが、ブロック壁のみよりも、却って遮音を悪くさせるというものである。平たくいえば、GL工法では石膏ボ−ドがほとんどフローティング状態になり、それが共振の巣になってしまうということらしい。
 だが、ブロック壁とボードの隙間を一つの空気層と考えれば、悪いことばかりでもないのではないか。何もわかっていないシロウトの強み(浅はかさ?)で、この辺はいい加減に行こう。

 そーゆーことで、GL工法はどんどん進んで行く。


 スクリーンを設置する予定の壁面である。ほぼ石膏ボードを貼り終った。ボードの寸法はサブロク合板と同じ910×1820mm、それが横5枚半、縦2枚貼ってある。スクリーンは120インチを予定しているが150インチまでなら設置できるはず、画面はでかい方が良い。
 と、この時は考えていたが完成後、機器、スピーカー、ラック、ソフト、いす等を入れてみると、そんなに簡単なハナシではないことが解ってきた。画面を大きくするには、プロジェクターを後退させなければならない。床置きなので、当然リスニングポイントも後退する。スピーカーの間隔は拡がり、左右の壁に接近する。どう考えても音が良くなるとは思えないのだ。
 今や巨大なサブウーファーを使うに至って、大画面化は尚更に困難である。やってできないことはないと思うが、考えただけでシンドくなるなあ。



 2階の天井工事である。アルミのフレーム(Cチャンネルという)をはりめぐらせておいて、そこに「ジプトーン」という石膏ボードの御親戚さんみたいな板を貼り付ける。写真でもわかるように、この天井はコンクリートの屋根裏から吊り下げられる形になる。オーディオ的にはあまりピンとこない。だが、2階では本格的にオーディオする気はないし、お客様の宿泊もあるだろうということで、天井を作ることにしたのだった。コンクリートむき出しの殺風景な天井を眺めながらオヤスミいただくわけにはいかないだろう。
 現在2階にはD‐55を置いて時々鳴らしているが、天井の共振はさほど気にならない。それよりもドラムセットがワンワン鳴いて、これのほうがよっぽど問題である。



 階段室と2階の部屋を隔てる壁を作る。ここも天井同様、アルミCチャンネル仕立てである。これに石膏ボードを貼り付けてイッチョ上がり。見事なまでのタイコ壁だ。矩体を構成する壁とは大違い、ドツいてみればすぐわかる。だからといってあまりどつかないように。コストダウンのしわ寄せである。
 そういえば、奥に見えている窓のサッシもコストダウンに一役買ってもらったところだ。ここだけがごくフツーの一重サッシになっているのである。
 この辺すべて設計者=現場監督からのご提案、この人も必死で工費削減を考えてくれた。技術はもちろん、こういう人との出会いが良い結果を生むのである。それは即ち、「縁」のなせる業だと、僕は思っている。
外壁補修



 塗装前の外壁補修も、ほぼ完了した。仮枠を一定の間隔に保つためのセパレーターを取り去った痕にへこみができるわけだが、すべてモルタルを詰めて平らにしていく。打ち込んだときに廻りきらなかったところにも新たにコンクリートを捏ねて補修する。
 この作業を終えて、表面にシーラーと呼ばれる目止め剤を塗り、一日以上の乾燥を経て本格的な塗装へ移るのである。

 7月に始まった工事から3ヵ月半、季節はすっかり秋になった。


 入り口玄関も下仕上げが終わった。この上にカーペットなり、リノリュームなりを貼り込む形になる。
 既に御出でいただいた方ならお分かりかと思うが、靴脱ぎが異様に狭いのである。これは、コストダウンのしわよせもあるが、それ以上に打ち合わせの不充分さが、大きな原因である。
 設計者は、多数の来客を想定していなかったのだ。僕自身、読みが甘かったと思う。意匠を凝らしてナナメにカットしたのは良いが、結果的には狭くしてしまっただけ。ここは大失敗である。
 靴を脱いで上がったところで、すぐ一段上がる。1階の部屋に入ったらまたすぐ一段下がる。なんだ、これは。ヘンな設計である。これは、コストダウンと限られたスペースの中で捻り出した「階段安全化」のための、苦肉の策なのである。



 階段室を短辺側に付けたため、短い距離で高く登らなければならなくなった。上がり框から同一面で階段の下まで行くと、段差が大きく踏み面の小さい、つまり非常に危険な階段になってしまうわけだ。階段も鉄筋コンクリート製、ここで事故があると、それは生命に係わることになる。いい加減には出来ないところである。どこかで一段なり、二段なりを稼ぎ出さなければならない。
 まず、2階へ登り切る手前で螺旋状にし、そこで一段稼ぐ。1階側では、靴を脱いだところで一段稼ぐ。これで段差220mm、踏み面235mmの階段に出来たのである。
 この苦肉の策で、1階の部屋に入ったところですぐに一段降りてもらうことになってしまった。これは大きなデメリットである。そんなところで段差がある部屋など何処にもないので、中にはバランスを崩す人もいる。スペースファクターも悪い。しかし、階段を踏み外して転げ落ちるよりは良いだろうと、思い切ることにする。




 外壁の塗装が始まった。塗装専門の職人さんが6人やってきて、手際よく作業を進めていく。
 まずはシーラーを塗る。木工でいうならトノコのようなものである。目止めと、塗料の乗りを良くするための下地剤だ。スプレーでドンドン行くのかと思ったら、スポンジローラーを使っての手作業である。面積が大きいのでなかなか大変だ。と思うのはシロウトだけ、オジサンたちはもっともっと大きな建物を相手にしている”プロ”なのである。こんなもん朝飯前、なのだ。
外壁塗装




 シーラーが硬化すると、次はアクリル系樹脂を吹き付けていく。ビルの外壁などに良く見られるデコボコした仕上げがあるが、アレである。あのデコボコを、先ず吹き付けてしまうわけだ。見かけは、木工ボンドに似た粘度の高い塗料である。アクリル系のせいか、非常に臭いがきつい。独特の薬品臭である。これは近所迷惑だった。



 ここは手作業というわけにはいかない。スプレーガンを使う。
 粘りが強いのでコンプレッサーの加減に注意しながら、しかもデコボコが均一になるよう、丁寧に吹き付けて行く。右端に写っているオジサンは、吹き付け面をハスから見て、ムラが出来ていないか確認している。親方は下にいて、大きな声で始終指示を出している。写真を撮るのにウロウロしていると、「大丈夫です。アレは腕がええさかい、最高の仕事します。この後純白に塗り上げまっさかい、心配せんと任しといてください」と力強く語ってくれた。

 作業は問題なく、進んでいく。




 実際に作業している職人さん達は、プロであるからしてそうでもないのかも知れないが、シロウトの僕から見れば、根気の要る仕事だなあと思われる。「均一に」と、言うのは簡単だが、これだけの面積、しかもほとんど一発勝負で仕上げてしまうには、それなりの集中力が必要だろう。

 どんな世界にも、職人技ってヤツが、あるんだなあ。




 デコボコの吹き着けが硬化するのを一日待って、親方の言った「純白」塗装が始まる。ここもスプレーガンを使うのかと思えばさにあらず、スポンジローラーでの手作業である。写真は一回目の塗装、この作業だけで三日間に渉った。夏の間は雨に悩まされたが秋になって好天が続き、この日も秋晴れの気持ち良い日だった。

 外の工程と共に、内装工事も順調に進んでいる。完成の日もそんなに遠くはないようだ。
仕上げ塗装
床塗装

 内装工事は、床の塗装に入った。コスト、音のこと、メンテナンスなどを考えて、床の仕上げは方舟と同じく、エポキシ塗料による塗り床とする。はっきりいって安いのだ。フローリング材などを使うと、最も安価なものでもこれの1.5倍はする。安くて硬くて傷がつきにくい、と、良い事ばかりのようだが、居住性は最低である。特に冬は猛烈に冷たく、体に悪い。長岡先生もこの床で寿命を縮めた?
 写真は、主剤と硬化剤をハンドミキサーの親方みたいなヤツで混ぜ合わせているところ。塗料とはいえエポキシ樹脂なので、基本的には二液性の接着剤と同じ物である。あれの粘度が低くなったもの、と思えばよい。主剤のほうに着色してあるわけだ。どこのメーカーかと覗いてみたら、カネボウ化学と書いてあった。



 充分に混ぜ合わさったら、床に流してコテで広げていく。床の面積と塗膜の厚みで総量を計算してあるはずだが、わりといい加減なようで、景気良くダバダバ流している。
 職人さんが「こんなんで仕上げて、この部屋なにしはりますのん?」と言うので、「オーディオです」「へ? オーディオ? ほんなら木とかそういうのんがええんとちゃいまっか?」「これでエエのんです。これが最高なんだす。そやから今日は今までにない、最高の仕事して行ったってください」「う〜ん、フツーはこんなんで床を仕上げる人、いてはらへんからねえ〜、ま、がんばりまっさ」

 変人だと思われたな、これは。



 塗装完了。これから完全硬化まで最低三日間は立ち入り禁止である。それにしても強烈な臭気だ。接着剤に使ってある溶剤とは違うのだろうか、猛烈なシンナー臭である。写真を撮るのに2〜3分いただけでキボチ悪くなってきた。この匂い、部屋全体に染み付いてしまったようで、7年たった今も残っているようだ。
 昨今、新築住宅の残留薬品類、いわゆるホルムアルデヒドなどが問題になっているが、箱船に関して言えばそんなもんクソ喰らえという感じである。まだこれから壁紙貼りに天井の塗装など、有機溶剤使いまくりなのである。

 やっぱりこの部屋、体に悪い。



 写真の整理をしていて気がついた。床の塗装よりも、天井塗装の方が先でした。失礼しました。
 ご覧のとおり、天井(といってもタダの鉄板だ)は白に塗装した。壁紙はこれからだが、これも白にする。VAやるには最悪? そのとおりである。できれば暗い色調の方が有利なのは重々承知している。しかし僕は、暗い部屋が非常に苦手なのだ。照明も必要以上に明るいのが好きだし、そのためにも内装は白がいい。セオリーをあえて無視して、真っ白の部屋にするのである。
 天井の白は良かったが、艶のあるタイプにしたのは失敗。同じ白でも、艶消し塗装にすればよかった。完成後、スクリーンに画を投射してみて分かったことである。
天井塗装



 サッシ枠とカーテンボックスも塗装が済んだ。黒に見えるが実際はこげ茶色である。これを見るといつも思うんだが、やっぱりサッシの色は黒茶系統が良かったなあと。この辺のセンスというヤツが、僕にはないのである。悲しいことだ。
 このセンスの無さが、2階のサッシ枠とカーテンボックスの色を決める時、再び失敗を呼び込むことになる。まったく以って、色彩感覚ゼロ人間には困ったものである。




 外装工事が完了し、足場が解体撤去された。初めて見る完成に近い姿は、随分スッキリした印象である。のっぺりしているとも言う。だが、白塗装は非常に綺麗な仕上がりである。さすがです、親方。
 いよいよ完成が間近になった。嬉しくて箱船の周りをグルグル歩き回る。歩いてはカベをペタペタ叩き、ドアをガチャガチャ開閉し、中へ入って手を叩き、2階へ上がって飛び跳ねて、また歩き回る。おもちゃを買って貰って喜ぶ子供と少しもかわらない。
外装工事完了



 2階の石膏ボード、天井板が貼り終わった。カーテンボックスも塗装できたが、ご覧の色である。パステルピンク! もちろん色見本を見て決めたわけだが、大きい面積になると印象がガラリと変わって見えるのだった。見本ではもっとシックな色に見えたんだがナァ...。
 まあ、壁紙が同系統の色柄だから、全くのミスマッチングともいえないが、妙にカワイイ色になっちまったい。

 なんだかなあ。



 2階壁紙貼り開始。ここの壁まで真っ白にするというのが僕の腹案だったが、それでは余りにも芸がナイと外野から声が上がり、淡いピンク花柄模様の壁紙に決定。これにパステルピンクのカーテンボックスだから、ちょっと困ったモノだが、ま、いっかぁ。
 「貼るだけ」の壁紙というが、仕事を見ているとやはり職人技である。石膏ボードの継ぎ目をパテで埋めて平らにし、専用の水性ボンドで貼りこんでいく。壁紙の継ぎ目は柄をピタリと合わせてあり、殆ど目に付かない。
 お見事、である。
2階壁紙



 壁紙完了。仕上ってみれば明るくていい感じになった、と思う、んだが。でもやっぱりちょっとカワイイ。カミサンは、自分が使う部屋でもないのに喜んでいる。
 あとは床である。ここはさすがにエポキシというわけにもいかず、何か考えなければならないが、金をかけるのはイヤダ。最初の見積もりでウッドのフローリングと指定してメンタマが飛んで出たので、なんとか安いものを捜そう。
 「在庫品、ない?」またである。「しゃーないなー、捜しますわ」。いつもスミマセンねえ、監督さん。



 1階も壁紙を貼り終わった。ここは予定通り「白」である。できるだけ凹凸の大きいものを選んだ。少しでも音の乱反射を増やそうという狙いである。
 天井に見えるのはエアコンだ。業務用のパッケージ型、本来は本体部分が天井裏に収納されスマートに収まるのだが、ここはそれがないので剥きだしになってしまった。かっこ悪い。方舟のように家庭用エアコンを複数設置することも考えた。しかしコストの面で上手く折り合いがつかず、この形になった。
 業務用だけあって冷暖房効率はバツグン、天井高3875mm24畳の部屋を充分にコントロールしてみせる。ただし静粛性は最低、非常にうるさい。ランニングコストも安くない。半分成功、半分失敗というところか。
スクリーン金具

 天井に張り付いたこの物体、何かお分かりだろうか。スクリーンを固定する金具である。最初は、天井に穴を開けアンカーボルトを打ち込んで直付けすることにしていた。しかしこの方法だと、もし穴の位置がずれていたら微調整が利かなくなるし、将来スクリーンを交換したら、また一から穴を開けることになる。
 そこでこの金具を作ってもらうことにした。スチール製のCチャンネル材を使ってある。スクリーン取り付け穴は楕円形にし、微調整が利くようになっている。天井への取り付けはデッキプレートの溝と噛み合う専用のクランプがあるのでそれを利用した。前後方向も溝に沿ってスライドさせることが可能だ。
 実際にスクリーンを取り付けてみると、確かに微調は利くがこれがベストとはいえない。そもそも、でかくて重いケースがついた電動巻上げタイプなんかにするから面倒なことになるのだ。CPも考えれば、ベストはやはり壁掛けタイプだろう。



 エアコンの室外機である。「建物に振動が伝わるとイヤだから、壁から離して別誂えの頑丈な台にのせてチョーダイ」と注文を出しておいたら、エラく立派な置き台を作ってくれた。高さを取ってあるのは積雪対策である。これだけ上げても、多いときには雪に埋まってしまうのだ。
 振動遮断はむつかしい。室外機を分離してもパイプが繋がっているので、そこから伝播してくる。しかし、室内機の騒音があるのであんまり気にはならない。こんなもんだろう。


 階段の絨毯が貼れた。色見本を見てこの色に決めたのだが、貼り上がりを一目見て「あ、これはイカン」と思った。カルイのである。暗くはないが、重厚感、高級感がまったくない。5cm角くらいの小さな色見本と、大きい面積で見るのとでは、印象が違いすぎるのであった。
 後日、更に後悔することになる。掃除のしにくさである。目の細かい絨毯なものだから、ほこりが絡み付いてなかなか綺麗にならない。掃除機でしつこく吸い取ってようやく、という感じである。「方舟」の階段はリノリュームが貼ってある。その意味にこんなところで気がついた。そうだったのね。
 7年経った今、この絨毯すっかり汚れてしまった。歩くところだけ茶色くなっている。近いうちに貼り替えねばなるまい。

 今度は絶対リノリュームにするぞ。


 結局2階の床は、コンクリートの上にタイルカーペットを直置きすることになった。500×500mm角のタイルカーペット、これも在庫品を捜し倒して60%OFF、ただし希望の色目とは少し違ってしまった。ま、ハイCPだしこれで良いだろう。
 接着せず置いてあるだけ、といってもまったく支障はない。キッチリ隙間なく敷き込んであってズレは皆無、7年以上経った今もまったく変わらない。写真が市松模様に見えるのは、縦目横目を交互に敷いてあるからだ。
 部屋の隅に職人さんが写っている。ミニキッチンを取り付けているのである。ここでちょっとした宴会が出来るように、流しと電気コンロがセットになったものを付ける。これは大正解で、今も大変重宝している。



 最寄の電柱から電源が引き込まれる。電源に関して特別なことは何もやっていない。ごく普通の住宅と同じ、強いて言うなら24畳ワンルームの建物としては破格の容量契約にしたくらいである。これは電力会社に頼めば対応してくれることなので、特別とは言えない。
 専用の柱上トランスを上げるとか、特に太い電線を使うとか、そういう話を仄聞するが実際にやっている人がいるのだろうか?
 



 この工事が完了すれば、いよいよ箱船に火が入る。待ちに待った出航の日は、もうすぐそこである。
火入れ


 箱船に初めて火が入った。まだブルーシートが敷いてあるし、ゴミなどもあって埃っぽいが、この日(’93年11月16日)を以って工事はすべて完了、翌日正式に引渡しとなる。
 だが、出来たのはただのコンクリートの箱、これからの引越しを考えるとゾッとする。大体が長岡ファンは重い物を好む傾向が強いので、移動の時には苦労するのである。ただ重いだけ、鉛のカタマリも異様に沢山あるし。

 一気呵成に行きたいところだが、一人では無理かな。

完成!

このページの最初へ戻る