D-55ESを聴く

 '89年の初出以来、多くのファンに作られてきたであろうD-55。当初はFE-206S専用に設計されたBHシステムだが、ユニットがグレードアップするたびその汎用性を遺憾なく発揮し、208S、208SSを使っても高いパフォーマンスを示してきた。

 今、このシステムにシリーズ最新ユニットFE-208ESを着けてみる。最新と言っても、第一回限定販売のもの。箱船メインシステム、スーパーネッシーからリタイヤした、所謂 Ver.1 である。スーパーネッシーで2年間、酷使に耐えた208ES Ver.1 が、D-55というBHシステムでどんな音を聴かせるのか。

 実に楽しみである。


 写真左が今回使うFE-208ES Ver.1 (以下ES)である。右は208SS(以下SS)。こうして見ると、ESの磁気回路が如何に巨大なものか、よく分る。ご覧の通りユニット奥行きが増えるので、単純に換装するというわけには行かない。換装実験にはアダプターリング、あるいはサブバッフル絶対必要。

 スペアリングは持っていないし、サブバッフルを作るのもメンドクサイ。さてどうしようかと思っていたら。

 くずてつがまたぞろ良からぬことをやるらしいと聞いた奇特な方から、とんぼさん謹製DFリングのスペアがあるから使っていいよという、願ってもないお申し出が。渡りに船と、ありがたく使わせていただくのである。助かりました。ありがとうございます。

 左の写真では、すでにSSを外しリングを付けてしまっている。理想的にはインナーリングも使いたいところ。しかし、今すぐというわけにも行かないので、今回は見送り。その気になった時には、スーパーネッシー、リヤカノンL用を作ってくれた友達にお願いしよう。

 補強桟との関係で、形状にはちょっとした工夫が要りそうである。

 上の写真でD-55は仰向けに倒れている。立てたままでのリング、ユニット取り付け作業は、ちょっと無理だと思う。

 倒すに先立っては、それなりの準備が要るのである。天板には50kgの鉛が載っているし、ホーン開口部底板には、ご覧のようにビニール袋に詰めた粒状鉛が、約40kg入っている。これらを全て取り除いてからの仰向け倒しである。

 換装作業が完了したら、これをまた元に戻さなければならない。シンドイのである。ムカシはこんなにツラくなかったけどなぁ。

 コードはこのように直出しである。裏板に付く補強板をそのまま端子板に利用している。「利用」というと聞こえは良いが、要するに別仕立てにする余裕がなかった、つまりめんど臭かったのである。かっこわる。

 コード直出しは、これ以降採用していない。メリットは確かにあるのだが、どうにも使い勝手が悪いのである。コードの交換には手間がかかるし、本体を運ぶ時にコードがブラブラして非常に鬱陶しい。

 SPターミナルに良いものを使いしっかりと繋げば、一聴して分るほどの劣化はない(と思う)。

 というわけで途中の工程は端折っちゃって、DFリング並びにES Ver.1 取り付け完了。トゥイーターはT-500Aを、uΛ0.47μF、ESに対して逆相面位置(DFリング面位置)で、とりあえず繋いでみた。

 CDプレーヤーは往年の名機(かな?)NEC CD-10、プリアンプはオンキョーP-308、パワーアンプはSW-11MkIIドライブにHMA-9500、D-55ESドライブにHMA-9500II、というシステム構成である。プリにはデンオンのPRA-2000ZRを使いたいところだが、現在出張中。帰ってきたら入れ替えたい。

 以下、SS使用時のF特からご覧いただこう。


 FE-208SS使用時、トゥイーターなし、フルレンジだけの軸上3mF特である。stereo誌'89年6月号に発表されている206S使用のF特と比べても、大きな差はない。良い特性である。


 FE-208ES Ver.1 使用時、上と同一条件でのF特である。1kHz以上で僅かに能率が低いように見えるが、ほとんど誤差の範囲か。

 ハイは早めに落ちている。100Hz以下で3dB〜5dB程度レベルが高い。SSと比較すると、さらにフラットに近づいた感じである。

 D-55ES、T-500A、SW-11MkII全駆動F特。軸上3m。見事なまでにフラットである。ちょっとビックリした。

 上にも書いたが、T-500AはESに対して逆相、バッフルから+22mm(リング面位置から+7mm)、0.47μFでこの特性になった。スーパーウーファーも同じく逆相。SS使用時は同相だったから、ここはひっくり返ったわけだ。

 600Hz以上の平坦さには驚くべきものがある。1階メインシステムのF特など鎧袖一触、これには到底及ばない。

 さて、肝心の音はどうだろうか。

次元の違い


 
F特の素晴らしさは際立っている。これだけ見れば文句なし、だが、F特だけで音は決まらないのがオーディオの面白いところ。何はともあれ、実際にミュージックプログラムを聴いてみないことには、話が始まらないのである。

 一発音が出た瞬間「アッ」と叫んでしまった。D-55がこんなふうに鳴っているのを聴くのはまったく初めてである。SSを遥かに凌ぐ音離れの良さ、生々しさ、艶、輝き、スピード感と深みが見事に両立した低域、ストレスをまったく感じさせない中域、透明で伸びがあり、繊細に切れ込んでくる高域。これを聴いてしまうと、206S〜208SSに至る限定ユニット達には限界を感じざるを得ない。

 ややドライな傾向だったこれまでのD-55にはない瑞々しさが、D-55ESにはある。音に独特の艶と潤いがあるのだ。5月の新緑のような、今芽吹いたばかりの木の葉のような瑞々しさである。歪み感の少なさも特筆すべきもの。一般住宅なら警察沙汰間違い無しというほどの大音量でも音が崩れないし、絶叫調にはならない。

 どんな音楽を聴いても実に楽しい、と言うよりも感激する、と言ったほうが良いかもしれない。そう、ホンモノのBHとはこういうものだったのかと、改めて思い知らされるのである。コード、電源、機器の設置など、ほとんど環境整備しない状態でこのパフォーマンスである。細部をキッチリ詰めて鳴らせば更に良くなることは間違いないわけだから、これはもう期待感極めて大なのである。

 絶対の自信を持ってお薦めする。D-55ユーザーで、D-57、58への移行を予定されていない方、是非ともESに交換してください。今、販売中のVer.2なら更にクオリティは上です。

 幾千万の言葉を並べてみても、この音をお伝えするのは不可能である。環境が許される方は、是非ともご自身でお聴きになることを強くお薦めしたいのである。

 この違いは、もう次元の差である。ESは、ある一つの壁をブレイクスルーしたユニットであるらしい。206S専用にと設計されたD-55、このキャビネットでこのパフォーマンス。ESに現状最適と思われるD-58なら一体どういうことになるのか。しかも近い将来フォステクスからD-58ESシナアピトンバージョンのカットサービスが始まるという。D-55ESが「究極のD-55」なら、D-58ESシナアピトンバージョンは「究極のBH」ということになるのだろうか。おそらくD-55ESを超えるものになることは間違いないと思う。

持つべきもの、仲間

 この実験を実施するきっかけをくださった42ECさん、garasuさん、そのほか掲示板にメッセージを下さった方々、DFリングをご提供いただいた「心強い協力者」氏には、心から御礼を申し上げたい。ありがとうございました。皆さんのおかげさまで、僕は大変良い音を聴くことが出来た。僕一人では、ぼんやりしていてとても叶わなかったことだと思っている。

 持つべきもの、それは何と言っても「仲間」なのである。

トゥイーター交換

 メインシステムパワーアンプP-700が故障し、しばらく音が聴けない。そこへちょうど0506IIGM Ver.1の再研磨が完了したので、とうとう我慢できなくなってD-55ESのT-500Aを交換してみることにした。

 そう言えば、T-500Aの前は0506IIを使っていたのだった。オリジナルアルミホーンのままでは500Aに分があったからこその交換だったわけだが、GMホーン、しかも偏執的研磨をぶちかましたあとのものではどうだろうか。

 コンデンサー容量、位相、位置などはT-500A使用時とまったく同一、単純に0506IIGMに置き換えた時のF特である。測定条件は前回と同じ。
 5kHz以上のレベルがやや上がっているが、ハイ上がりというほどではない。ほとんど無調整に置き換えただけで、これだけ綺麗に繋がるのはちょっと驚きである。

 聴感上ではF特で見る以上に音の違いが大きい。艶、透明感、切れ、浸透力、音離れ、輝きなど、多くの点でT-500Aを上回る。しかも妙な強調感は皆無である。アルミホーン0506IIとは別物であるらしい。

次のテンカイは


 これならこちらを常用トゥイーターに使いこなして行くべきである。GM Ver.2との比較もしてみたいところだが、メンドクサイのでこのままで行こう。今回、特に思い知らされたのは、研磨の威力である。もちろんGMホーンそのものの効果がいちばん大きいとは思うのだが、鏡面化しない状態でもこれほどの向上があったかどうか、それは疑問である。

 そこで、今後の展開。

 できる限り鏡面度を上げてみる。これしかないだろう。それには当然努力が必要、しかしそれだけでは実現できない。ドウグが大切である。ピカールだけでは既に苦しくなっている。ネックになるのは研磨材粒子の細かさと硬度の限界である。これを解決するには新しい研磨剤を持ってくるしかないわけである。第一の旗手は、やはりダイヤモンドペースト(DP)か。

 ちゅうわけで、入手することに決定。どれくらいの番手で始めればよいのか、ドシロウトの僕には皆目見当がつかない。ピカールの細かさが耐水ペーパー#2000を遥かに超えているようなので、その辺から推測するに#8000〜#12000くらいのDPではどうだろうかと、このあたりから始めてみることにする。

 小さな注射器様の容器に5g入って5,000円。番手が下がれば(ダイヤモンドの粒が大きくなるので)8,000円〜10,000円。さて、こんなモノを買ってしまって使いこなせるのかどうか、些か不安である。だがこれも一つの実験ということで、ともかくやってみなければ何も始まらないのである。

 今後この話題に触れなければ、それは大失敗だったっちゅうことで、よろしくお願いしたいのである。
 

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