アクサイチン湖
崑崙山中
一日走れど集落見ず
藍に澄む湖幾つかにあふ

青き赤き
タルチョはためく峠の上
着膨れて立つ遠く来たりて
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阿里(獅泉河)
七日間崑崙の深き
山路来て
眼下に連なる獅泉河の街の灯

四千米の高度に慣れて
息安し今朝は歩みぬ
獅泉河に沿ひて
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崑崙山中の永久凍土
このあたり永久凍土か
氷厚く張りたる
地面白く光れる

テープとカメラに
わが感動を収めつつ
再びくるなき崑崙越えゆく
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タルチェン村の宿舎より
月明にヒマラヤの
稜線ほの白し
バスはカイラス山の麓に着きぬ

明け方の冷気に
息の苦しくなれど
携帯酸素すでに尽きたり
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カイラス山(6654m)とインダス源流
釈尊とも
ヒンドウ教のリンガとも
人は祈れりこの円き雪の峰

海抜五千米の
岩山廻らす中に立つ
カイラス山六六五四米
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タルチェン村の草原よりカイラス山を望む
極まりて天澄む下に
カイラスの聖き孤峰よ
雪煙あぐ

この国に生れをらば
五体投地して
吾もめぐらむ浄き山と湖
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ナムナニ峰とマナサロワール湖
何に憧れ信なき吾の
遠く来しカイラス山よ
マナサロワール湖よ

月を越えし旅に
再びの望の月
ヒマラヤの峰を青く照らせり
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タルチェン村にて
川岸に羊を割きゐる
父と幼なのさまも和まし
タルチェン村は

茶褐色の背山の上に
カイラスの雪嶺まどかに
タルチェンの村
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タルチェン村
経文を刻みし色石
積む道に五体投地して
み山をめぐる人々

赤肌の岩山重なる
渓のうへ
鳥葬の鷲か緩やかに舞ふ
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ヘットランプ夜々の枕べに
常に置き灯さぬ国を
長く旅する

マユム・ラ峠越えて
着きたるパルヤン村
小学校に通ふ子らに会ふ
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シガツエ タシルンポ僧院
意欲みなぎる
パンチェン・ラマの写真仰ぎ
不意に逝きたる一生悲しむ

毛沢東に囚はれしより
十八年後チベットに戻り
忽ちに亡し
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シガツエにて
日の光強き国かも
薬缶の水沸かす反射器
並ぶ道ゆく

病む人のごとく
喘ぎて木陰ゆく
空気薄く太陽はめくらむばかり
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五体投地
ひと月は剃らず洗はず
旅を来つ
日焼けし顔は吐蕃にまがふ

輪廻を信じ
転生ラマを奉じ
生き来し民ぞ五体投地す
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ラサ市 ガンデン寺屋上より
ラサ市街めぐる
中国兵ら見れば
敗戦の後のわが日本を思ふ

白き絹布ささげ
釈迦像に礼拝す
首都のみ寺に国と遠く来て
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ポタラ宮殿
ダライ・ラマ今はいまさぬ
ポタラ宮に人は慕ひくる
五体投地をして

死は僅か四十九日か
「死者の書」は
信なく逝かむこころ慄はす
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108の大マニ車 タルチェン村にて
ダライ・ラマ
去りたる宮の
柱時計
とまりたるまま
四十数年

         
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